<わーケーション・ホテル>普及拡大へ法人主導で「ワーケーション」 ホテルなど提案相次ぐ

普及拡大へ法人主導で「ワーケーション」 ホテルなど提案相次ぐ

 

 仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を兼ねてリゾート地などに滞在する「ワーケーション」を普及させようと、オフィス開発を手掛けるデベロッパーやリゾート施設を運営するホテルなどが企業に施設の利用を提案する動きが広がっている。個人が交通費や宿泊費を自己負担するのはハードルが高いが、企業負担ならと考えるサラリーマンも少なくないと考えられるためで、利用した企業側からもメリットを指摘する声が上がっている。  「ワーケーションを経験した社員の間では、『経費を使うからには生産性を上げなければ』という責任感が生まれ、仕事の効率が良くなった」  こう指摘するのは、プリンスホテルが長野県軽井沢町で提供する戸建てコテージを使ったワーケーション宿泊プランを利用したベンチャー企業の男性社長だ。  社員らにとっては、上司からワーケーションを勧められても周囲の同僚が実践していなければ始めにくいという心理が働く。会社側が決めた日程で社員がワーケーションの現場に出向くことで、そうした懸念が解消され、会社側としても労務管理の課題を解決することができたという。  プリンスホテルの担当者は、仕事をしに行くために自分で経費を負担することを躊躇(ちゅうちょ)する人も少なくないとして、「ワーケーションを普及、定着させるためには、企業の動きが重要になる」と語る。  白い砂浜と水色の海が広がる和歌山県白浜町白良浜(しららはま)。海岸から内陸に車で約5分走ると、コワーキングスペースや会議室などを備えたワーケーション施設「WORK×ation Site(ワーケーションサイト) 南紀白浜」にたどり着く。  昨年5月に同施設を開業した三菱地所の開発責任者、玉木慶介さんは「企業がイノベーションを起こすのをサポートできる施設をテーマに開発した」と話す。  開業以来、金融機関やIT企業など、大企業から中堅中小企業まで幅広い業種で利用が広がっているという。利用者の中には大手企業の複数の支店から集められた若手社員らのグループもあれば、役員らが秘匿性の高い議論の場に使う場合もあるという。  玉木氏は開業当時、開発チームの社員ら約10人で2日間、この施設を利用した。集中して議論したり、リラックスしながら会話したりするうちに開発チームのメンバーの強みと弱みが分かるようになったほか、上層部への報告を念頭に、成果を出さなければならないという責任感も生まれ、「生産性が高くなった」(玉木氏)という。  ただ、ワーケーションの導入を模索する日本企業の中には、労務管理や労災の課題を指摘する声も少なくない。新型コロナウイルス感染拡大を受けて急速に普及した在宅勤務と同様に、社員の勤務状況を把握しきれない面があるためだ。  働き方の多様化で社員同士が顔を突き合わせる時間が減ることで、求心力の維持をどう図るかという問題に直面している企業もあるという。  日本企業の中には、カリスマ経営者が強い求心力を発揮して社員を引っ張る会社よりも現場での判断を重視するボトムアップ型企業の方が多いという見方もある。玉木氏は「ボトムアップ型企業は組織としての一体感を出しにくい弱点がある」と指摘する。  こうした日本企業はこれまで、社員同士が仕事や宴席などで多くの時間を一緒に過ごすことで組織としての一体感を醸成してきた。ところが、働き方の変化に伴い、その前提が崩れ始めているという。  玉木氏は「組織の求心力を維持するには、濃厚なディスカッションができる場が必要になるだろう」と予想し、ワーケーション施設がそうしたニーズに応える場になると期待を口にする。